こんにちは。けみかです。
今回は「実験ノートの書き方」についておさらいしましょう。
みなさま、実験ノートはちゃんと書いていますか?
どんなに腕の良い実験者でも、正しく実験ノートを書けていなければ評価も半減します。というかむしろマイナスになると言っても過言ではないでしょう。きれいな結果が出たとしても、「本当にちゃんとした手順で実験したの?」と疑われたら何も反論できません。
そうなってしまわないためにも、実験をするときは常に、必要な情報はしっかりとノートに書くことを習慣付けましょう。
ついつい「実験してると手が開かないし終わったらまとめて書けばいいかな…」と思ってしまう気持ちもよく分かりますが、そうするとどこかしら記憶が不鮮明になって正確に記述できなくなることがあるのでやめた方がいいです。経験談です…。
ノートに書くべきこと
そうは言っても、初心者の方は特に「じゃあ具体的には何を書けばいいの??」となると思います。その際、先輩や教官、あるいは上司が丁寧に教えてくれればラッキーですが、環境によっては難しいこともあるでしょう。
というわけで、ここからは実験ノートに書くべきことを列挙していきます。
なお、分野により書くべき内容も変わってくるところもあるかとは思いますが、ここでは有機合成の実験を行うことを想定しています。
実験前に予め書いておくこと
実験に取り掛かる前に、予め以下のことは記入しておきましょう。
(1) 実験日:実験を行う日にちを記入します。面倒臭がって日にちを書かずに実験を進めると、レポートをまとめる時になって大変なことになるので必ず書きましょう。特に複数の実験を並行して行うときは、日付の情報が無いと本当にわけがわからなくなります。
(2) 天気、気温:有機合成では「室温で反応を行う」という表現がよく出てきますが、その「室温」が実際には何度だったのかを実験者は知っておくべきです。また、Grignard反応などの禁水反応を行う場合は、もしも上手くいかなかった場合には部屋の湿度が疑われることもあるので、晴れだったか雨だったかのような天気の情報も役に立ちます。もちろん具体的な湿度が分かればなお良いです。
(3) 実験番号:これから沢山の実験を行っていくことになるので、それぞれの実験に番号を振っておくことで整理しやすくします。
(4) 実験のタイトル:後でノートを見返したときに「どんな実験をしたのか」が一目で分かるようなタイトルを記入しましょう。有機合成の場合は反応の名前を書いたりすることが多いですかね。(例:「1級アルコールの酸化」)
(5) 実験の目的:「その実験を行うことで何を知りたいのか」を書きます。(例:「反応温度を0 ℃、30 ℃、70 ℃とした場合の反応率と不純物発生量の変化を調べる。」)
(6) 化学反応式:有機合成実験の場合は、必ずその反応式を記載しましょう。文章を読むよりも早く視覚的に内容を把握することができます。
(7) 使用する試薬:実験で使用する試薬の情報は具体的に記入しましょう。試薬名はもちろん、その試薬のメーカー、ロット番号、分子量あたりは必須です。そのほか、融点や沸点、含量、液体であれば比重なども分かると良いです。
(8) 使用する器具:フラスコやオイルバス、冷却管など、使用する予定の器具は全てピックアップしておきます。フラスコやビーカーなどは具体的な容積や形状も記入しましょう。実験のスケールが決まっていれば自然と定まるはずです。(例:500 mL四口丸底フラスコ、200 mLトールビーカー)
(9) 実験操作の流れ:試薬を加える順番や、加温、冷却、ろ過などの工程を順を追って書いていきます。矢印を使って書くと分かりやすいですね。
ここまで書けたら、さあ実験を始めましょう。
実験中に書いていくこと
実験中に書くことは、大きく分けて「実際の操作」と「様子の変化」の2つです。順番に説明します。
実際の操作
(1) 操作内容:文字通り、「何をしたのか」を書きます。(例:「フラスコに試薬を添加した。」、「反応液をろ過し、ろ集物を溶媒で洗浄した。」)
(2) 操作時刻:合成において時間は非常に重要なパラメーターです。ある操作を行ったときには時計を見て、操作内容を書いた隣あたりに走り書きでもいいので、時間を絶対に書いておきましょう。
余談。実験台からすぐに部屋に設置された時計が見えれば良いですが、そうでないことも多いので私は必ず腕時計(デジタル)を着用しています。個人的には結構な必須アイテムだと思っています…。
(3) サンプリングの情報:これは(1)にも含まれることですが、反応率や純度の確認のため、HPLCやNMRなどの測定用に反応液や分液後の抽出層などから一部サンプリングすることがあります。これをアリコート(aliquot)と言ったりします。特に小スケールの反応では、サンプリングの量が最終的な収率に影響することもあるので、いくら採取したか書いておく必要があります。
(4) TLCの情報:反応チェックをTLCで行った場合はその結果も書きます。TLCを印刷して貼付する方法と、TLCの結果を実寸大で模写する方法があります。いずれの場合でも、TLCの種類、展開溶媒、発色剤、UVおよびその波長、各スポットのRf値を付記します。ジアステレオマーの分離などで多重展開を行った場合はその旨も記載しましょう。
様子の変化
(1) 外観の変化:「反応液の色が変わった」、「固体が析出してきた」、などの目に見えて分かる変化を詳細に記述します。特に、澄明だった反応液からの固体の析出は、スケールアップの際に撹拌を妨げる要因となり得るので注意が必要です。
(2) 温度の変化:時間と同様、温度も重要なパラメーターです。反応によっては、その反応率や不純物の発生量に著しい影響を与えることもあります。シュレンク管のような容器を使った反応では温度計が使えないので仕方ないですが、フラスコでの反応では、面倒でも温度計を使用するようにしましょう。
(3) においの変化:例えばSwern酸化のような反応で発生するジメチルスルフィドは強烈な悪臭を放ちます。逆に言えばこの悪臭が発生していれば反応が進んでいることの証左にもなります。
このような情報をしっかりと書いておくことで、次に同じ実験をする際に非常に大きな助けとなります。
実験後に書くこと
実験が終わったら、「結果」と「考察・結論」を書きましょう。
結果
(1) 収量と収率:有機合成における最重要データの一つです。収率は【(生成物の収量÷出発物質の使用量)÷(生成物の分子量÷出発物質の分子量)】で算出できます。二つのユニットのカップリング反応などの場合は、どちらの基質を基準としたのかまで書いておきましょう。
(2) 純度:NMR、LC、GCなどの分光測定で得られた純度を記載します。収率と並んで重要なデータです。
(3) 外観:液体なのか固体なのか、無色なのか有色なのか、粘性や吸湿性、潮解性の有無など、目視で分かる情報を記載します。
考察・結論
実験で最も重要な部分です。自分の立てた仮説に従って計画した実験を実際に行い、そこで得られた結果は仮説通りだったのか、あるいはそうでなかったのか、それは何故なのか、などを具体的に考えていきます。
例えば、【「基質Aと基質Bを反応させて目的物Cを合成する実験」において、Aの使用量を増加したら副生物Dの量も増加した】場合、その原因としてCとAが反応してDが生成した可能性が考えられました。
この考察から、「Aの使用量を控える」、「反応温度を下げる」ことで、「過剰反応が抑制され、目的物Cの生成量が最大かつ副生物Dの生成量が最小となるポイントが見つけられるのではないか?」と新たな仮説が立てられます。
そして、この仮説をもとに新たに実験を立案・実施し、目的とするゴールを目指していきます。
おわりに
以上が、実験ノートに書くべき最低限の事項です。もちろん、更に詳しい情報を書くことも可能であればそうすることが望ましいです。
書くべきことが沢山あって特に初心者の方は戸惑うかもしれませんが、実験を重ねていくうちに確実に慣れていくので安心してください。
むしろ、慣れていくに従って段々とノートがいい加減になっていきます。そして不都合が生じて焦ってまたちゃんとノートを書くようになります。私です(笑)
ちなみに、近年は電子ノートというものも現れていますが、そんなに普及していないような気がしますね。少なくとも私の研究室では未だに紙ベースの実験ノートを使っています。
いずれにせよ、実験ノートはどんな研究であっても最重要な記録です。特に研究者を志す人はどうか忘れずにいてくださいね。
ではでは!
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