【残ると後々問題になりがちな】有機溶媒中の水の除き方

水面が揺れている 化学

こんにちは。けみかです。

前回、DMFやDMSOなどの高沸点極性溶媒の除き方を紹介しました。

関連して、今回は有機溶媒中の水の除き方をご紹介します。

やり方は2つ。

①反応溶媒:市販の脱水溶媒を使うのが手軽。保存にはモレキュラーシーブを使おう。
②抽出後の溶媒など:乾燥剤が使えない場合は共沸脱水を試してみよう。

といった感じです。

…こっちを先に紹介すべきだったような気がしなくもないですがまぁ良いでしょう(何が

さて、ブチルリチウムを使ったアニオン化などの有機金属反応をはじめ、水を大敵とする反応は数多くあります。

また、例えば分液後の有機層にはある程度の水が含まれていますので、特にカラム精製を行わない場合はちゃんと除いてやらないとほぼ確実に目的物中に残ってしまいます。

こんなとき、皆さんはどうやって水を除いていますか?

反応溶媒の脱水

最近は試薬会社から購入できる脱水溶媒のラインナップも充実しており、またppmオーダーの水分規格が設定されている場合も多いので、特に気にせずそれらを使っている方も多いと思います。とはいえ、極微量の水分が影響するような反応に供する場合には、ひと手間加えた方が個人的には安心しますね。

私は、脱水溶媒は主にガラス瓶入りのものとキャニスター管入りのものを使っています。

瓶入りのものは手軽に扱えて便利ですが、一度開封すると水分の混入を許してしまうのが難点です。一度でまるまる一瓶使い切ってしまうのが最良ですが、小スケールの検討を行っているときなどはそうもいきません。

そのようなときは、シュレンク管に移してモレキュラーシーブを加えて保存しましょう。

シュレンク管の画像
シュレンク管 (C) VIDTEC

シュレンク管は予め不活性ガスで置換しておき、ガスを吹き込みながら溶媒を注ぎます。その後、活性化したモレキュラーシーブを加えてコックを閉め、グリースを塗って栓をします。

モレキュラーシーブの活性化法は色々ありますが、私は【モレキュラーシーブを適当な大きさのナスフラスコに入れ、三方コックを付けて真空ポンプで減圧しながら、ヒートガンで炙りつつ数分間振り混ぜる】というやり方をしています。

なお、モレキュラーシーブは色々な孔径のものが市販されていますが、3Aのものが最も脱水能が高いようです。

あまり大きい孔径のものを使うと溶媒分子自体が吸着サイトを独占しちゃいそうですね(^o^;)

モレキュラーシーブの説明
モレキュラーシーブの種類 © KANTO KAGAKU

一方、キャニスター管は、不活性ガスで溶媒を圧送するという性質上、設置場所が限られるのがネックでしょうか。

ですが、全く空気に触れずに溶媒を抜き出せるので、瓶入りのものよりは遥かによく水分の混入を防ぐことが出来ます。研究室の全員が頻繁に使う脱水の必要な溶媒(例えば、THFやDCMなど)なんかはキャニスター管で置いておくと非常に便利かと思います。

キャニスター管の画像
キャニスター管
© KANTO KAGAKU

反応後処理後の溶液の脱水

冒頭で述べた分液の例では、有機層を分離した後に硫酸ナトリウム硫酸マグネシウムなどの乾燥剤を用いるのがポピュラーかと思います。

ですが、製造釜へのスケールアップを想定すると使えないこともしばしば。水を吸った乾燥剤が固まって配管を詰まらせる要因となり得るからです。

このようなときは、共沸脱水を行うことが多いです。

水と共沸する有機溶媒は色々と知られていますが、よく使うものを紹介します。

沸点(℃)共沸点(℃)共沸組成(w/w)
エタノール78.378.296 : 4
1-プロパノール97.287.772 : 28
2-プロパノール82.280.188 : 12
トルエン61.256.198 : 2
ペンタン36.134.699 : 1
アセトニトリル81.676.684 : 16
ピリジン115.393.659 : 41
水と共沸組成を形成する有機溶媒

なお、上表の値は全て1気圧のときのものであり、また共沸組成は「有機溶媒:水」の順番で書いています。例えば、「96 gのエタノールと4 gの水は78.2 ℃で共沸する」といった感じです。

トルエンピリジンで共沸脱水をする例をよく耳にしますが、その場合、今度は沸点の高いトルエンやピリジンが残ってしまうので個人的にはあまり好きじゃありません。。

そんなわけで私はよくアセトニトリルを使っています。30~40 ℃くらいの温浴でエバポレーターに掛けてやるとよく飛んでくれます。

一方、メタノールアセトンは水と共沸組成を作らないので気を付けましょう。

「エタノールは水と共沸するしメタノールでもいけるやろ~」とか言いながらやってしまうのはよくある誤りです。昔私もやりました…。

おまけ(乾燥剤について)

分液操作のあとに乾燥剤を使って有機層中の水を除くのは一般的ですね。よく用いられるのは硫酸ナトリウム硫酸マグネシウムでしょうか。基本的にはどちらを使っても問題ありませんが、微妙に性質が異なることは知っておいても良いでしょう。

私自身は、学生時代は硫酸マグネシウムを頻繁に使っていましたが、現在はもっぱら硫酸ナトリウムを使用しています。その理由の最たるものは、「硫酸マグネシウムは粒径が細かいので濾過がしにくい」ということです。

大学の実験室で扱うようなフラスコスケールの実験ではほとんど気にする必要はないでしょうが、数キロ、数トンレベルへのスケールアップを想定している場合にはこれが非常に大きな問題となります。

これくらいのスケールではフラスコではなく「」を使って反応を行うのが普通です。この釜に乾燥剤を入れて撹拌した後、釜の下に付いている配管を通して濾過を行うわけですが、硫酸マグネシウムを使うとここで詰まってしまうリスクが高いのですね。そして、一度詰まってしまうとその詰まりを解消するために大変な労力を要することになるので、予めリスクのより低い硫酸ナトリウムを使って検討をしているというわけです(もちろん、硫酸ナトリウムでも詰まるときは詰まります)。

そのほか、硫酸マグネシウムは僅かに酸性であるため、化合物によっては分解することもあるようです。これは割と有名な話で、先輩などから聞いたこともある人は多いのではないでしょうか。私は硫酸マグネシウムのせいで化合物が壊れたという経験をしたことはありませんが、実際どうなんですかね。

さて、これら乾燥剤ですが、以下のような容器に入れて使うことをおすすめします。

はい。ただの調味料ディスペンサーです(笑)

空になった試薬瓶を再利用して容器として使っている人も多いかと思いますが、スパーテルですくったりすると静電気で飛び散ったりして結構厄介なんですよね~。ところが、この形状の容器なら蓋を開けて傾けるだけでストレス無く使うことが出来ますのでぜひお試しください。想像以上に快適ですよ(^^)

おわりに

今回は「有機溶媒中の水の除き方」をご紹介しました。

大学の実験では共沸で水分を除くということはあまりやらないかもしれません。

ですが、企業の研究所などでいずれ工場レベルのスケールアップを想定している場合には、頻繁に用いられる手法の一つです。

この辺りはプロセス化学の考え方が深く関わってきますが、機会があれば記事にしてみたいと思います。

ではでは!

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